紋章上絵と手描き紋・印刷紋


紋章上絵

紋章上絵とは、手描きで家紋を描き入れることをいいます。十年以上の修行により習得した昔ながらの伝統技法「下絵描き」「紋型彫り」「色あわせ」「摺り込み」「線描き」などの技法を総合駆使し、日本の民族衣装である冠婚葬祭の和装式服・七五三祝着・お宮参りの初着などに、大切なお客様の家紋を一筆一筆描き入れることをいいます。

しかしながら現在、紋章上絵とは根本的に製作工程の異なる「写真製版を利用した印刷紋」が広く普及したうえ、手描き紋と印刷紋がほとんど区別されずに扱われているために、一般消費者が大量生産向けの印刷紋を付けられたあげく、手描き紋の加工料を払わされている、といった状況を生み出しています。

それは、現在の業界関係者の中の「手描き紋でも印刷紋でも、紋が付いていれば紋付だ」「コストが低ければ利益が上がる、品質は二の次」と考える人たちの存在、そして、できるだけ印刷紋であることをわからないように、また、中には手描き紋の大切さをうたい文句にした広告を出しながら、ほとんど印刷紋を手がけているような印刷紋業者の存在が主な要因と考えられます。

簡単な技術で極短時間で大量に仕上がる印刷紋と、長年の修行により習得した技術を総合駆使し、一筆一筆丁寧に描き上げる手描き紋。当然製作時間も加工料もまったく異なります。しかし、それがいまの呉服業界でははっきりと区別されていません。たとえれば手描き友禅と印刷や型染め友禅が同一製品として扱われるような、また、和服の仕立てで、手縫い仕立てとミシン仕立てが同じ加工料であるようなものであり、とても手描き紋業者と印刷紋業者とでは勝負になりません。現状のままでは、紋章上絵技術の衰滅は目に見えています。

わたしたちは決して印刷紋の存在を否定するわけではなく、ただ、手描き紋と印刷紋とを区別して扱ってもらうことを願っています。これまでも仕事に手描き紋であることを証する証紙を添付したり、いろいろな事業を通し手描き紋と印刷紋の存在と違い、そして家紋の大切さを社会に訴え続けていますが、消費者が直接わたしたちに紋入れを注文することは少なく、成果は思い通りにはでていません。

国の無形文化財に選択された紋章上絵保存会の目的は「紋章上絵技術の保存伝承」です。「手描き紋と印刷紋が区別されずに扱われているため、紋章上絵技術の存続が危うくなっている」という現状をぜひご理解いただき、みなさま方が紋付を誂える際は「家紋は手描き紋」と指定していただきますよう、お願いいたします。そのみなさまのひとことが、日本特有の伝統技術・紋章上絵技術の保存伝承に強くつながるものと確信しています。

紋章上絵技法の一例

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